「ティンブクトゥ」 ポール・オースター著 柴田元幸訳

2006年10月15日

 ポール・オースターは1947年生まれ、日本で言うとモロに「団塊世代」ということになる。ベトナム戦争、ヒッピー、ドラッグ、フラワー・チルドレンなんていう言葉が浮かぶ。そして人間の言葉を理解する犬「ミスター・ボーンズ」のご主人ウィリーもそうした場所に取り残されてしまった人間だ。ポーランド移民の子で、ブルックリンに住む貧しい詩人ウィリーの唯一のともだちであり、理解者が犬のミスター・ボーンズだった。小説の前半は、死を予感したウィリーが訪れた街、ボルチモアの街角でついに息を引き取ろうとする主人と犬の友情について語られる。非常に哲学的であったり、観念的であったりして正直読むのがしんどい。でもこの世代の作家の作品にはこういう部分が多い。ジョン・アーヴィングなんかにも似てるかも知れない。猥雑で陰鬱で救いがない。
 ウィリーが死に、ミスター・ボーンズの放浪の旅が始まる後半は軽快な展開で一気に読ませる。中華料理屋の息子にかくまわれたり、裕福な一家に飼われたりする。でも、人の言葉と心を持った老犬、ミスター・ボーンズは亡き主人の夢や幻想に惑わされ悩みながらも結局は最後の選択を行う。訳者の柴田元幸氏があとがきで述べているように、これは特に犬だから、という小説ではない。「あの時代」の理想、生き方のままに死んでいった同世代の同士たちへのメッセージだという気がしてならない。裕福な家庭に飼われ、その豊かさにどっぷり浸かってしまったミスター・ボーンズの言葉が象徴的だった、「こんな生活も実は悪くないじゃないか」。前半の陰鬱さに比べ後半の軽快感が魅力、★3.5。


ティンブクトゥ

Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/海外純文学



コメント

TBさせていただきました。

ラストは心がちぎれそうなほど、切なかったです。


« 読書の秋 | メイン | Fが通過します 佐藤雅彦 »