マイノリティーの拳 林壮一

2006年10月29日

 「やだ!やめてよ!」
子供の頃、父がボクシング中継にテレビのチャンネルを合わせるたび、母親は金切り声を上げてこれを拒否した。若い頃腕っぷしが強かった父は、戦後の闇市でもストリートファイターぶりを発揮していたらしい。そのせいか、プロ野球が大嫌いだった父もボクシングと相撲は好んで観た。それにひきかえ昭和19年に甲府で空襲に会った母は暴力を極端に嫌った。母親が顔を背けたテレビの画面を見ると、真っ黒な大男たちが殴り合っていた。それがカシアス・クレイ(モハメド・アリ)だった。汗で黒光りする躰がゆさゆさと揺れている。幼い頃からひ弱で痩せっぽちの僕は恐怖を感じた。僕は母に似たのかも知れない。ボクシングもプロレスも大嫌いになった。
 この本はそんなヘビー級ボクサーたちのインタビューをまとめたものである。それも、ゲットーから這い出してきたマイノリティばかりの。マイク・タイソン、ホセ・トーレス、アイラン・バークレー、ティム・ウィザスプーン、ジョージ・フォアマンたちはいずれも頂点を極めはしたが、結局はプロモーターに利用され、搾取されただけであった、という事実は僕にとっては特段驚くに値しなかった。僕がよく知るジャズ・ミュージシャンとさしたる違いはなかったからだ。マイルス・デイビスやアート・ブレーキーも差別と戦い続けた。「貧困と絶望から這い出すためにはボクシングしかなかった」ボクサー達は口を揃える。驚いたことに、「○○みたいなヒーローになりたかったからボクシングを始めた」というボクサーはこの本には居なかった。ゲットーから抜け出す手段に過ぎなかったわけだ。
 僕はボクシングというひとつのスポーツを極めた男達の記録、というふうに読みとることにした。彼らは敗北によって人生を学び、家庭を守ったり、聖職についたりして人生の残り半分を迎えようとしている。それは僕も43歳となった今でこそ、意味を読みとれる部分であったりするのかも知れない。ティム・ウィザスプーンの良きババぶりに好感が持てました。でもやはりボクシングは好きではないなぁ。


マイノリティーの拳

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書評/ルポルタージュ



コメント

初めまして!
ホッピー会では遠くてお話出来ず残念でした。

この「本好き」企画の趣旨に則りTBさせて頂きました。今後もよろしくお願いします!

momochichiさんはじめまして。
もしかして江古田のうどん屋で接近遭遇だったかもしれませんね!
こちらからもトラックバック送信させていただきました。よろしくお願いします。

すみません、2度ほど送信したのですが、TBが反映されていないようです。

どうしてだろう???

>momochichiさん
サーバーのログを見てみたんですが、momochichiさんからのトラックバックを受信していないようです。以前、みかん星人さんからのトラックバックは成功しております。恐れ入りますが、もういちど操作をご確認お願いいたします。

今、三回目を送信しました。

自分とこの送信履歴には3回分載っているんですが・・・何かが悪影響を与えているのでしょうか?

ふーん、あんた、バタフライナイフ持って暴れるのは好きなのにね。

通りすがりに聞きたい事がある。
あんたとは、Min^2さんなのか、Min^2さんの母上様なのか。
牙を剥きたいのなら、正々堂々剥きなさい。
自分の不幸せをばらまきたいだけならば、自分自身の足下にだけばらまいているがいい。

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